「寝床」古今亭志ん輔

有名な噺なので簡単に説明しますと、素人芸の義太夫を語りたくてしょうがない旦那が周りの人たちを困らせるという噺です。志ん輔師匠のは初めて観たのですが各所で義太夫のさわりをうなりながらのなかなかの熱演でした。このような演出の人が他にいるのか寡聞にして知らないのですが、私にとっては目新しいものです。私にとっての「寝床」と言えば実際に観た師匠ならば六代目三遊亭圓生、そうでなければ「居酒屋」の金馬(先代)、黒門町の師匠(八代目桂文楽)といったところですか。志ん生師匠のは聴いた事はあるのですがさげまで演じていないので「寝床」というよりは「ドイツ」の方がしっくりきます。(ネタばれ御免)
とにかくこの旦那の義太夫から逃れようとする人たちの必死さと、それを聞かされたときの旦那の心理状態が見せ場なのですが、演者によって力を入れる場所が違うのがこの噺の面白い所です。圓生師匠のは三回ばかり聞いたことがありますが時間の関係もあるのか、それぞれ微妙に演出が違っていました。最初に聞いたのが店子達が義太夫を聞くために集まっている所から始まる演出だったのでその印象が強いですね。金馬師匠のは何といってもがんもどきの製造法の説明がいかにもで面白い。黒門町は旦那の心理の掘り下げぶりが素晴らしい。
これらの名人達と比べて志ん輔師匠が決定的に違うのはやっぱり間の取り方なのかな。テレビに親しんだ人向けの間と言いますか。声だけを聴いているとあれ、と思うときが何度もありました。悪い、というのとは違います。感覚の違いのようなものです。もう少し沢山の現代の落語を聴いてみないと断言しにくいですが。