「酢豆腐」

ぼちぼち夏も本格的になって参りました。今日は昼過ぎまで雨でしたが。
この時期の噺でまず真っ先に思い出すのが「酢豆腐」です。まあ食べ物というより食べ物の成れの果てなんですが。この「酢豆腐」とは何かと言いますと、真夏のすっごく暑い日に何日もしまわれていた豆腐が黄色く黴を生やしてしまったものの事です。これを食べる羽目になった若旦那がとっさに名付けたのが酢豆腐です。
実は高校生の頃に家でたまたま放置されていてかなり酢豆腐状態になった豆腐をためしに少し食べてみた事があります。
当時は多少の酸っぱい匂いの漂ってきた食べ物でも普通に食べていたので、これも大丈夫かな、と思ってちょっとだけ口に入れてみましたが、もの凄く舌を突き刺す痛みと匂いに、やはり「酢豆腐は一口に限る」というのは至高の名言だと納得した次第でした。
初めてこの噺を聴いたときに、この若旦那は一度口に出した事は騙されたとわかってもやり通すなんて、江戸っ子の鏡だなぁと感心したのですが、その想いは今でも変わりません。
この噺は黒門町*1が得意にしていて有名ですが、私は20年以上前に聴いた志ん朝さんのが忘れられません。初めて聴いた「こう暑くっちゃぁとてもじゃないけど寝てらんねぇ」に爆笑したり、糠味噌の古漬けを出すくらいなら金を出す、というのに妙に納得したのを昨日の事のように思い出します。
因みに私は豆腐が大好きで、毎日一丁平均は食べていますが、それほど美味しくない豆腐でも冷や奴で食べるときは一切なにもかけずにそのまま食べます。

*1:八代目桂文楽